みんなで読む哲学入門

Ph.Dが講師の市民講座(上野ゼミ)

著者と語る 哲学オンライン対談(2): 井奥陽子『バウムガルテンの美学』をめぐって

西洋近代哲学の古典をとりあげ、上野大樹先生(政治思想史専門)と一緒に入手しやすい文庫を中心に読み進めています。
今回は上野大樹先生がオンラインで対談する一回完結のイベントになります。井奥陽子著『バウムガルテンの美学』(慶應義塾大学出版会)を題材にとりあげますが、未読の方も奮ってご参加ください


啓蒙思想と美学・芸術≫
啓蒙の世紀に本格化するヨーロッパ近代の思想は、キリスト教の神中心の世界観を相対化し、この世界あるいは宇宙における「人間」の地位を飛躍的に向上させました。他方でルネサンス以来のヒューマニズムには、自然を道具化し搾取する人間中心主義だという批判のほか、理性万能信仰との嫌疑も向けられ、18世紀啓蒙にはらまれる合理主義がその原因だと指摘されることもあります。しかし啓蒙思想は、感情・感性・情念といった、合理性には還元できない人間の諸側面に深い観察のまなざしを向けたのも事実です。
今回は「近代美学の父」について論じた『バウムガルテンの美学』の著者、井奥陽子さんをお呼びし、狭義の理性に限定されない人間の活動を総合的に論じようとするなかで「美学」=「感性の学」という学問が登場した時代について考えてみたいと思います。美学が「芸術」を対象とするのはあまりに当然にも思えますが、啓蒙以前はむしろ神の創造物たる「自然」が美の客観的モデルでした。神ならぬ(天才的な)人間による制作物である芸術作品に内在的な価値を見出す見方は、美を感じる人間の側の主観的能力やその表現形態への関心にもつながっていくでしょう。本書は哲学的視座から美学にアプローチした貴重な成果であり、美術・芸術の分野のみならず、人文科学の根幹にあるものを再考する絶好の機会を与えてくれる書物です。(上野・記)

後援:日本18世紀学会

◎日時:2020年11月16日(月) 19時〜21時
◎場所:オンライン会議アプリZoomを使用したオンラインゼミナール

 

※ 本対談の模様の一部は、国立人文研究所(KUNILABO)のnote記事として文字起こしされ、全2回にわたって公開されました。以下をご覧ください。

note.com


[講師紹介]
井奥 陽子(いおく ようこ)
2018年、東京藝術大学美術研究科博士後期課程修了。博士(美術)。
現在、東京藝術大学教育研究助手。二松學舎大学、青山学院女子短期大学日本女子大学大阪大学非常勤講師。
おもな業績に「A・G・バウムガルテンとG・F・マイアーにおける固有名とその詩的効果」『美学』70(1) 、2019年、"Rhetorik der Zeichen: A. G. Baumgartens Anwendung rhetorischer Figuren auf die bildende Kunst," Aesthetics 22, 2018など。


上野 大樹(うえの・ひろき)
一橋大学社会学研究科研究員。思想史家。京都大学大学院人間・ 環境学研究科博士後期課程修了。京都大学博士。 日本学術振興会特別研究員DC、同特別研究員PD等を経て現職。 一橋大学立正大学慶應義塾大学にて非常勤講師。 最近の論文に、"Does Adam Smith's moral theory truly stand against Humean utilitarianism?" (KIT Scientific Publishing, 2020), "The French and English models of sociability in the Scottish Enlightenment" (Editions Le Manuscrit, 2020).