みんなで読む哲学入門

Ph.Dが講師の市民講座(上野ゼミ)

アダム・スミス『国富論』(4編7章)ゼミ参考文献 (1)

 2021年4月よりアダム・スミス国富論』の第4編7章を輪読していますが、受講者の方より参考文献に関する問い合わせをいただいたので、こちらで情報を共有します。

                             (文責: 上野大樹

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啓蒙思想奴隷制

4編7章「植民地について」の主題は、「両インド貿易」と呼ばれるヨーロッパ諸国の国際商業の展開、特に西インド貿易≒大西洋貿易です。当然問題になるのが、アメリカ植民地問題、そして大西洋三角貿易のなかでアフリカ大陸から新大陸アメリカへと強制的に運ばれてきた黒人奴隷の問題です。今回は、啓蒙思想における奴隷制の問題について掘り下げるための文献をご紹介します。

 全般的な導入として一読してわかりやすいのは、

 

ドリンダ・ウートラム『啓蒙』(田中秀夫・逸見修二・吉岡亮(訳)、法政大学出版局、2017年)  の第6章「人びとが所有物であるとき―啓蒙における奴隷制問題」

(※ なお、近年の啓蒙研究の動向についてサーベイした拙稿 「J. G. A. ポーコックとジョナサン・イスラエル以降の啓蒙研究の諸展開 : 壽里竜『ヒュームの懐疑主義的啓蒙』に寄せて」でも、同書について言及しました。)

 

です。また文明史・歴史社会学的な観点から、生活・生存様式の史的発展と社会における女性・子ども・奴隷の境遇の変化について体系的な議論を展開したのは、スコットランド啓蒙の思想家たちで、アダム・スミスも当然その一角を担います。

 

クリストファー・ベリー『スコットランド啓蒙における商業社会の理念』(田中秀夫・林直樹・野原慎司・上野大樹・笠井高人・逸見修二・村井明彦訳、ミネルヴァ書房、2015年)、第5章「自由と商業の徳」

 

ジョン・ロバートソン『啓蒙とはなにか』(野原慎司・林直樹訳、白水社、2019年)、第3章「境遇の改善」

 

 

 ディスカッションの際に話題になったジョン・ロックの財産権論(私的所有の非規約的正当化)と奴隷制の関連については、とりわけ北アメリカ植民地および独立後のアメリカ合衆国の文脈で大きな問題です。近年の思想史関連の書籍のなかでは、以下に言及がありました。

 

デイヴィッド・アーミテイジ『思想のグローバル・ヒストリー:ホッブズから独立宣言まで』(平田雅博ほか訳、法政大学出版局、2015年) 、第6章「ジョン・ロック、カロライナ、あの『統治二論』」

 

 

 

 後半では、権利論や功利主義といった啓蒙期の奴隷制批判のロジック、理念上は奴隷制が批判され制度的には廃止されたにもかかわらず、古代ローマなどと比べてもはるかに過酷な奴隷状態がグローバル化しているという「現代の奴隷制」問題などについて、文献を紹介します。

(続く)