みんなで読む哲学入門

Ph.Dが講師の市民講座(上野ゼミ)

I.カント『永遠平和のために』読書会 第一回授業ノート

                                                                                                        文責:上野ゼミ事務局員 白山羊ひつじ

 

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著者 イマヌエル・カント(1724〜1804)
プロイセン港湾都市ケーニヒスベルク(現ロシア領カリーニングラード)出身。『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』の三批判書を記し、後のヘーゲルに繋がるドイツ観念論の土台になったといわれている。『永遠平和のために』は晩年の政治哲学の論考。

 

『永遠平和のために』(1795) 71歳
「戦争の世紀」といわれた18世紀欧州において、1795年のプロイセンとフランスの間にかわされた平和条約が契機のひとつとも。本文の構成は6つの予備条項と5つの確定条項および付録としての論考から成り、それぞれ永遠平和を導くための条件が論じられている。
フランス革命(1789)により欧州の絶対王政が崩れ、主権が国民へとうつっていく近代国家の原型が築かれていた時代に、主権国家を意識した内容。

 

第一回範囲

  • 第一章 6つの確定条項
  • 第二章 第一確定条項

 

◇歴史背景
前後の時代と比較して18世紀を見ることでその特徴を掴む。
18世紀の欧州は「啓蒙の時代」であるとともに「戦争の時代」だった。
17世紀は主権国家が確立していった内戦(シビル・ウォー)の時代。その過程で宗教戦争が行われた。神聖ローマ帝国三十年戦争で大きな打撃を受けた。17世紀は内戦とその克服が特徴。
17世紀と比べて18世紀の継承戦争を見ると、フランスとイギリスの対抗関係が中心となり、欧州各地で戦争が起こった対外戦争の時代。第二次英仏戦争が象徴的。19世紀以降の帝国主義は、植民地支配が拡大することで、植民地をめぐる争奪戦が進んだ結果。19世紀と20世紀以降は現代につながる流れにある。

 

◇社会状況
社会状態は市民領土(シビルステート)としての集まりが「国」。
いわゆる「自然状態」から社会契約論を経て市民的・法的状態となる(シビルソサエティ・市民共同体)。
この市民共同体では、実定法、法律が定められ、それが守られている。守られなければ罰則がある。市民政府・政治的統治(シビルガヴァメント)、シビルロウ(市民法・公法)。これらは国際法という概念を理解するためにも重要。

 

◇自然状態と社会契約
「自然状態」は「すべての人がお互いに争う相互の戦争状態」(ホッブズ)。この「戦争状態」は「自己保存を求めて、自己保存を失う」状態でもある。それを防ぐために社会契約がある。社会契約が出てくることで、国内で秩序が形成されるためのメカニズムが示される。
ホッブズ、ルソー、カントの社会契約について共有しているのは、「本来の自己保存を共有する権利は、新しい政治社会に譲渡して主権国家を作る必要がある」という事。

 

◇国内の政治秩序
『永遠平和のために』で問題になっているのは国際関係。国が他の国を併合する(いわゆる「物件とする」)のではなく、主権を有する国として扱う事もそのひとつ。国を法的に、下部組織ではなく、対等な関係の相手として扱う事。

 

◇では、「主権者」とは誰なのか?
カントの考えでは、「統治形式の問題」が出てくる。主権の問題と政治体制の問題は分けて考える。

司法権を含むような立法権、そして執行権は誰にあるのか。主権者は国民でしかない。正しい全員がそれぞれの利益を追求して勝手気ままに行動している個人ではなく、一般意志の担い手としての個人。この個人が主権ととらえられる。

次に出てくるのは、主権国家と中間団体の関係。主権者である国民と中間団体は対立する。
例として、封建制の封建諸侯(地主貴族)や、特に大貴族。彼らはながらく貴族制で政治にかかわってきた。

主権の問題(立法権)共和政/政治体制(政体)の問題(執行権)民主政

ルソーは王朝間の戦争は結局、統治者(支配者、プリンス君主)が戦争をおこなう場合は特殊意思の行使と。理念的な共和政が出てきてどうかは、解釈がわかれる。

 

立法権と執行権の分離
カントの代表原理は、この「立法権と執行権の分離」にある。これらの権利はそれぞれ別の人格が行わなくてはならない。共和政とは代議的である。
カントの代表制の問題点は、主権者と立法府の関係ではなく、執行・行政の関係を行っている点。また、カントにとって「専制」とは、立法権と執行権が分離しておらず、支配者が立法を行うと同時に執行も行う統治形式。

 

メモ
日本の間接民主制の立法・行政・司法の分立よりも、大統領制の方が分権的。また、民主制では立法と執行(行政)の人格的分離が不可能である。立法府と執行府の癒着や腐敗は生じやすい。これをどうコントロールするのかが問題。19世紀イギリスの問題は、このような政治腐敗をどうコントロールするかが大きな政治問題であり論点だった。 

※上記の内容は、授業に参加した上野ゼミ事務局員である「白山羊ひつじ(仮名)」の書き取りノートであり、必ずしも講師の解説を正確に反映した内容ではありません。ご注意下さい。授業の雰囲気をお伝えできれば幸いです。