みんなで読む哲学入門

Ph.Dが講師の市民講座(上野ゼミ)

ルソー『人間不平等起源論』をめぐる注釈的対話:第1回

「みんなで読む哲学入門」2021年冬期は、上野大樹講師により18世紀フランスの思想家ジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau)の著書『人間不平等起源論』読書会を行っています。今回は、1月18日に行われた第1回(指定範囲「献辞」及び「序文」)の読書会での対話から、同著を読み進めるためのポイントを一部抜粋してご紹介します。講師の解説に即した文献の提示もありますので、今後の学習にご活用下さい。

 

                               文責:上野大樹

 

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ジャン=ジャック・ルソー



 

 

思想書をどのように読むか——コンテクスト主義について


受講者A: ルソーについては名前は知っていましたが、社会契約説とか、教科書的な知識以上のことは知らず、今回がテクストに触れる初めての機会になりました(注:ゼミ形式で『人間不平等起源論』を輪読)。実際に読んでみると、一見とっつきやすそうに見えますが、立ち止まって考えるといろいろ分からない点が出てきます。講座の解説で強調されていた「読者」と「コンテクスト」(文脈)について、あらためて説明お願いできますか。


上野大樹: そうですね。一回あたりにそこそこの分量を読んでいるので、すべて立ち止まって考える余裕はないかもしれませんが、一読して流してしまうようなところに重要なポイントが含まれていることも往々にしてありますよね。

重要そうだが最初は理解できなかったという部分を少しでも読めるようになること、これはもちろん重要です。それに加えて、何となく読み流していた箇所の重要性が浮かび上がってくる、という体験も、哲学的テクストを読んでいくうえでもう一つ重要なことだと思います。その際に、テクストをそこに位置づけるべきコンテクスト(文脈)を押さえていくと、そういった読みができるようになることがあります。


受講者A: コンテクストは、やはり前提知識をいろいろ知っていないと分からないのでしょうか?


上野: ある程度はそういう部分もあると思います。特に近年の思想史・哲学史のメジャーな方法論である「文脈主義(contextualism)」の考え方だと、相当な歴史的背景知識を踏まえないと、テクストを著者が意図したように、あるいは当時(その時間的レンジをどうとるかでまたコンテクストが複数化するのですが)そのテクストが読まれたように、読んで理解することは困難だという部分はあります。

しかし、文脈主義を取るケンブリッジ学派(注:クエンティン・スキナーやジョン・ポーコックが代表格)でも、そうした歴史的(とりわけ思想史的)コンテクストが、テクストを読む上での唯一の正しいコンテクストだと主張されているわけではありません。歴史的にもコンテクストは複数存在します。

そして、ときにそうしたコンテクストを無視したり逸脱したりすることが、思いもしなかった創造的な読解をもたらすことがあります。それはテクストが単に書かれたもの、意味を封印して冷凍保存した静態的(static)なものではなく、言語行為というパフォーマティブなものでもあるからです。そうした創造性は言語という活動のもつ固有の性格です。

 

デリダとルソーと東浩紀


受講者A: どういった哲学者がその点を論じているのでしょうか?


上野: このあたりについては、まずフランスの哲学者ジャック・デリダが「エクリチュール」論として展開しています。デリダハイデガー存在論に触発され、根本的に「差異」を含みこむ人間の「現存在」としてのあり方を検討するなかで、西洋世界に流布したプラトン主義的な「存在」についての見方、究極的な「同一性」にもとづく一元論哲学を批判します。

ルソーとの関係で重要なのは、「差延」概念に代表されるデリダの思想が、第一にルソーの「音声中心主義」と格闘するなかで紡がれていったということです。差延は、以前にお話ししたように、ユークリッド幾何学と対比した場合の「辞書」的秩序を考えるとわかりやすいと思います。いくら定義を遡っても、それ以上遡れない「アルキメデスの点」へと到達することはなく、いつの間にか「循環」してしまうという例の話です。いや、そんなことはなくて、エンサイクロペディア(「百科事典」とふつう訳されます)を基礎づけることができるんだ、という構想が「基礎づけ主義」です。大陸合理論はその傾向が強いとされますが(デカルトのコギト)、イギリス経験論でも、単純観念や第一次性質や直観的理性(コモンセンス)をめぐる議論で共通の問題が同じように論じられています。

 

受講者A: 「辞書/事典を編む」方法も、そういった学問の基礎的方法論とつながっているのですね。


上野: 少し脱線しますが、『百科全書』という啓蒙の知のあり方と「体系」理解をめぐっては、別のところで少しだけお話したことがあります。そちらも文字起こしされる予定ではありますので、気長にお待ちください。

現代思想寄りでいうと、何よりもミシェル・フーコーの『言葉と物』が外せない出発点です。百科全書派のなかでは、ダランベールが基礎づけ主義的な知の体系化と制度化を構想する傾向にはありましたが、あまり図式的に説明すべきではないかもしれません。このあたりは、

 

【文献】 寺田元一「編集知」の世紀――18世紀フランスにおける「市民的公共圏」と『百科全書』』(日本評論社、2003年)。

 

をまずご覧いただくとよいように思います。ダランベールと啓蒙の学知の制度的側面については、非常に本格的な研究書でいきなり全部を読破はできないと思いますが、

 

【文献】 隠岐さや香科学アカデミーと「有用な科学」――フォントネルの夢からコンドルセのユートピアへ』(名古屋大学出版会、2011年)、第4章。

 

という著作があります。


受講者A: 「同一性」というのは、第一回目のゼミで話題になったコミューン的一体感のようなものとも関りがありますか?


上野: ああ、そうですね。エクリチュールではなく音声が、ロマン主義的な透明な同一性を象徴するという点は、話題に出た見田宗介の「コミューン」の理想にも深く関わります。見田宗介の場合は、実存主義で有名なサルトルの後期思想が一つのバックグランドになっていると思います。

こうした音的同一性に仮託された「現前性の形而上学」を批判することがデリダの主眼でしたが、しかしルソーに対しては、単純に諸悪の根源のように捉えているわけではまったくありません。むしろ、ルソーに対するすぐれて内在的な批判を通じてデリダの思想が彫琢されていったという点が重要だと思います。

専門的な研究では、J.スタロバンスキやS.バチコのルソー研究は、そういった視角にもとづいています。


受講者A: 日本語で読める文献としては、どういったものからアプローチするとよいですか?


上野: まずは日本の現代思想という枠組みでいえば、東浩紀デリダ読解、そしてルソー解釈はかなりよい接近方法なのではないかと思っています。思想史研究者は、現代思想の分野を地に足のつかない「浮ついた」遊戯と斜に構えて眺める傾向もありますが(苦笑)、ときにはそういったアプローチが有益なこともあるかと思います。いきなりデリダを読もうとすると、かなりハードルが高くて挫折するかもしれません。。。『精神について』は比較的読みやすいですが。

全般的にいって、いわゆるポストモダン的なフランス現代思想は、教養的知(humanities)を脱構築しようとする強い傾向性があります。フーコーデリダたちは、こういったことをフランスの知的エリートとして涵養した、とてつもない教養と博識にもとづいて遂行するので、やや矛盾しているというかアイロニカルですが(笑)。


これに対して、近年の英語圏の思想史研究は、むしろ「上から」の理論的・普遍的・非歴史的な読解を崩していくうえで、たいへんハイコンテクストな言語ゲームを展開し、そうした歴史的教養に裏打ちされて初めて見えてくる新しい光景を楽しんでいる気配もあります。ある意味、かなりスノビッシュに見えるかもしれません(苦笑)。しかし、普通に読んでいるとあまり気づきませんが、一級のフランス現代思想もじつは、同じように行間を読まなければならないという意味でかなり高負荷なテクストが多いですね。
それと、忘れていましたが、私自身かなり前に雑誌上で、東浩紀の議論をけっこう紙幅を費やして一度論じたことがありました。ゼミ参加者の方といずれクラウド上の共有フォルダなどでそういった原稿のファイルも共有できるようにしたいと思っています。余裕が出てきたらで、少し先の話になるかもしれませんが。

加えてウェブ上では、以前に千葉雅也さん(ドゥルーズ研究)と内田樹さん(レヴィナス研究)の現代思想関係の著作の書評記事を書いているので、そちらもご覧ください。こちらは検索して「京都アカデメイア」のサイトで見つけられるはずです。


【文献】  東浩紀存在論的、郵便的――ジャック・デリダについて』(新潮社、1998年)。
未見ですが、ご本人が同書について解説した動画が最近有料公開されたようです。)
【文献】 東浩紀一般意志2.0――ルソー、フロイト、グーグル』(講談社、2011年)。
【文献】 増田真「起源の探求と社会批判――『人間不平等起源論』を中心に」および「ルソーにおける言語の問題」、桑瀬正二郎(編)『ルソーを学ぶ人のために』(世界思想社、2010年)。
(※ デリダ『グラマトロジーについて』での議論を踏まえ、ルソーの言語観や自然状態論について文学の見地から検討したもの。)

 

コンテクスト主義とアメリ言語哲学

 

受講者A: 話を少し戻して、コンテクスト主義の背景についてお話しいただけますか? 言語は創造的だ、ときに書き手の期待を創造的に裏切る、といったお話がありましたが。


上野: そうでした。一つ目にデリダエクリチュール差延のお話をしましたが、狭い意味でのコンテクスト主義となると、それに直接関連してくるのは、むしろアメリカの言語哲学です。デリダも言語行為論のサールやオースティンと論争しており、結局はつながってくる部分があるのですが。

 

(以下省略)

 

上野大樹(うえの・ひろき)
一橋大学社会学研究科研究員。思想史家。京都大学大学院人間・ 環境学研究科博士後期課程修了。京都大学博士。 日本学術振興会特別研究員DC、同特別研究員PD等を経て現職。 一橋大学立正大学慶應義塾大学にて非常勤講師。 最近の論文に、"Does Adam Smith's moral theory truly stand against Humean utilitarianism?" (KIT Scientific Publishing, 2020), "The French and English models of sociability in the Scottish Enlightenment" (Editions Le Manuscrit, 2020). 

 

上野ゼミ 参考文献 2018〜2019

 ハンナ・アーレントの政治哲学入門に続くヨーロッパの政治哲学入門講座では、アーレントの学習を契機に上野大樹先生より参考図書をご紹介いただきました。一部はゼミの課題図書として読んでいます。

 

アーレント

 

「啓蒙とユダヤ人問題」in『反ユダヤ主義ユダヤ論集1』みすず書房、2013年

2019.1.29読了

「独創的な同化──ラーエル・ファルンハーゲン百年忌へのエピローグ」in『反ユダヤ主義ユダヤ論集1』みすず書房、2013年

2019.3.7読了

「ベルリンのサロン」in『アーレント政治思想集成1』みすず書房、2002年

2019.4.25読了

ヴァルター・ベンヤミン」in『暗い時代の人々』ちくま学芸文庫、2005年

 

「暗い時代の人間性──レッシング考」in『暗い時代の人々』ちくま学芸文庫、2005年

2019.5.30課題

   

啓蒙思想(17世紀〜18世紀)

 

スピノザ『神学・政治論』(全2巻)光文社古典新訳文庫、2014年

 

上野修スピノザの世界』講談社現代文庫、2005年

 

レッシング『賢人ナータン』岩波文庫、1958年

2019.7 課題

ディドロ『ラモーの甥』岩波文庫、1964年

 

アダム・スミス『法学講義 1762〜1763』名古屋大学出版会、2012年

 

ヒューム『政治論集』京都大学出版会、2010年

 

澤井繁男『ルネサンス再入門』平凡社新書、2017年

 
   

ヘブライズム(ユダヤ思想)

 

加藤隆『一神教の誕生──ユダヤ教からキリスト教へ』講談社現代新書、2002年

2019.1.29 副読本

2019.3.7 副読本

小原克博『一神教とは何か──キリスト教ユダヤ教イスラーム平凡社新書、2018年

 

M.ウォーザー〔ウォルツァー〕『出エジプトと解放の政治学新教出版社、1987年

 

ジョン・グレイ『ユートピア政治の終焉』岩波書店、2011年

 
   

ユダヤ人問題」関連(全体主義、東欧世界、シオニズム

 

エンツォ・トラヴェルソ全体主義平凡社新書、2010年

 

マーク・マゾワー『バルカン──「ヨーロッパの火薬庫」の歴史』中公新書、2017年

 

墓田桂『難民問題──イスラム圏の動揺、EUの苦悩、日本の課題』中公新書、2016年

 

L.ポリアコフ『アーリア神話──ヨーロッパにおける人種主義と民族主義の源泉』法政大学出版局、1985年

 

植村和秀『ナショナリズム入門』講談社現代新書、2014年

 
   

京都アカデメイア書評記事⇨Webで検索

 

岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』(ヨーロッパ思想におけるヘブライズムの重要性)

 

内田樹『他者と死者──ラカンによるレヴィナス』(20世紀ユダヤ思想の重要人物レヴィナス

 



 夜スク スピンオフ期/夜ゼミ ヨーロッパの政治哲学入門 2018年10月〜2019年7月

【2020年度 特別編】著者と語る 哲学オンライン対談(1): 隠岐さや香『文系と理系はなぜ分かれたのか』をめぐって

西洋近代哲学の古典を、上野大樹先生(政治思想史専門)と一緒に入手しやすい文庫や新書を中心に読書を進めています。
2020年はカント『永遠平和のために』、ヴォルテールの『寛容論』を先生と一緒に読んできました。10月からはアダムスミスの『道徳感情論』を読む予定です。
今回は上野大樹先生がオンラインで対談する一回完結のイベントになります。

 

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現代世界の情勢や諸問題をトータルかつ批判的に考えるうえで、歴史的な視座を持つことは欠かせません。今日ある種の臨界を迎えつつある近代社会の知的起源の一つは、ヨーロッパの啓蒙思想に求められます。「啓蒙の世紀」と呼ばれる時代には、現代では細分化されてしまったさまざまな学問分野を自由に行き来するかたちで、「哲学者(philosophes)」と呼ばれる一群の人びとが闊達に文筆活動を展開していました。啓蒙とは、多様な領域が交差しあい、新しいものと古いものとが出会っては衝突する、公共的な言論空間でした。

今回は、『文系と理系はなぜ分かれたのか』(星海社新書)の著者で、フランス啓蒙の研究者でもある隠岐さや香さんをお招きし、同書を出発点としつつ、啓蒙と近代科学をめぐって論じます。本書はアカデミーなど啓蒙期の学問の制度化から説き起こして、現代の高度に専門分化した科学のあり方を歴史的・批判的に検討しています。本対談では、隠岐さんの科学史家・18世紀研究者としてのご研究にくわえて、そうした専門的な業績と最近のよりアクチュアルな問題関心との接点についても、お話をうかがっていきたいと思います。本書未読の方も奮ってご参加ください。(上野・記)

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◎日時:2020年9月23日(水) 19時〜21時
◎場所:オンライン会議アプリ「Zoom(ズーム)」 を使用したオンラインゼミナール
◎参加費:1,500円/学生1,000円
◎オンライン会議室ご招待状:チケットをご購入された方に、 事務局からご案内致します。
※開催当日前日までにZoom招待状が届かない場合、お手数ですがobenkyoinfo@gmail.comにお問い合わせ下さい。
◎Peatixチケット購入締切: 当日18時まで販売しております。
◎Peatixチケットキャンセル: チケット購入後はお支払い方法により返金手数料が発生します。 クレジットカード決済の場合、返金手数料はかかりません。なお、クレジットカード決済のキャンセル締切は開催日当日18時までです。

[講師紹介]
隠岐 さや香(おき・さやか)
科学史家。東京都出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。博士(学術)。現在、名古屋大学大学院経済学研究科教授。単著『科学アカデミーと「有用な科学」―フォントネルの夢からコンドルセユートピアへ』(名古屋大学出版会、2011年)は、科学史・社会史・思想史を横断する力作として第33回サントリー学芸賞(思想・歴史部門)を受賞するなど高く評価された。共著に『科学の真理は永遠に不変なのだろうか』(ベレ出版、2009年)、『科学思想史』(勁草書房、2010年)、『合理性の考古学』(東京大学出版会、2012年)、『ポスト冷戦時代の科学/技術』(岩波書店、2017年)などがある。

上野 大樹(うえの・ひろき)
一橋大学社会学研究科研究員。思想史家。京都大学大学院人間・ 環境学研究科博士後期課程修了。京都大学博士。 日本学術振興会特別研究員DC、同特別研究員PD等を経て現職。 一橋大学立正大学慶應義塾大学にて非常勤講師。 最近の論文に、"Does Adam Smith's moral theory truly stand against Humean utilitarianism?" (KIT Scientific Publishing, 2020), "The French and English models of sociability in the Scottish Enlightenment" (Editions Le Manuscrit, 2020).

 

お申込み

ptix.at

先生と雑談:秩序づけと収集

 こんにちは、事務局の白山羊ひつじです。先日、「みんなで読む哲学入門」2020年上半期(カント『永遠平和のため』、ヴォルテール『寛容論』、隠岐さや香先生対談企画)終了の振り返りと、後期に向けた上野先生との企画会議を終えました。合間の雑談に上半期の範囲にかかわる話題で先生とのやりとりがありましたので、記録しブログにて共有致します。

 

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白山羊

カントの『世界市民という観点からみた普遍史の理念』について「カントはすぐ体系にまとめたがるんだね」という話題から、百科全書派の「事典をつくって網羅しようとする」物の捉え方との比較という議論になったことがあります。

 

上野先生

カントが体系的にまとめたがるという点、百科全書派と比較されて大切な指摘だと思います。大きくいって、百科全書派や経験論者の一部には網羅性や収集家的特性が見える一方、ドイツは学としての基礎づけ・正当化や理論的に整理して秩序づける指向性は強いとは言えそうです。
その上で、教科書的にはカントは「批判」(理性に出来る事はどこまでかという意味での※白山羊註)、それに対してヘーゲルらは「体系」を重視したという違いがあると考えられています。その内実はいろいろと考えるべき論点ですが。

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なんでも体系になっていた方が学術的に優れているとぼんやり印象していましたが、体系以外にも物事を考える方法は色々あるのですね。先生の応答から、また知りたい事、知らないと気付いた事が増えました。専門家の先生に直接質問し、答えをもらう事で答え以上に理解が進むようです。

 

毎回の授業時間、あるいは授業時間後に、先生は質疑応答可の気軽な雑談時間を設けてくれています。せっかくの機会、ちょっとした疑問も大丈夫なので、読書会に参加された方はぜひ先生に質問してみて下さいね。

授業では、この記事の先生のコメントについての質問も受け付けています。

 

 

参加お申込みは下記です。

minnadeyomutetsugaku.peatix.com

 

(文責:上野ゼミ事務局 白山羊ひつじ)

2020年度 夏季ゼミナール『寛容論』(ヴォルテール)読書会(全3回)

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2020年度「少し長めの思想書を読む」

これまで当ゼミナールでは、 近現代ヨーロッパの政治哲学にかんする古典を輪読してきました。 2018年度にはユダヤ人問題や全体主義に近代的な啓蒙思想の隘路を見たアーレントの諸論考を読み進め、 2019年度にはそこから遡って啓蒙思想のさまざまな形態を、 イギリス・フランス・ ドイツの国境をまたいで旅するように眺めてきました。 これまでは体系的な大部の哲学書ではなく、 啓蒙思想のもう一つの姿であるエッセイ形式の簡潔な文章を一回完結で読んできましたが、 2020年度はもう少し長めのテクストを、 数回に分けて輪読していく形式で行います。候補文献は、

・ルソー『人間不平等起源論』
・カント『永遠平和のために』
ディドロ & ダランベール『百科全書』(序論および代表項目、岩波文庫
ヴォルテール『寛容論』
アダム・スミス道徳感情論』

等です。 このなかから一冊を選び時間をかけて読み進めていくことで、 現代世界のあり方や未来像について、 その思想的な基盤にまで遡って考えていくことができたらと思います。

 

上野大樹・記)
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講師の上記テーマ設定を元に、2020年7月〜9月はヴォルテール『寛容論』を3回に分けて輪読する事になりました。

課題図書:『寛容論』ヴォルテール中川信訳(中公文庫)

 

第1回 2020年7月29日(水)19時〜21時
 冒頭から第9章まで(中公文庫p9からp76まで)

第2回 2020年8月19日(水) 19時〜21時
 第10章から第14章まで(中公文庫p77からp124まで)

第3回 2020年9月9日(水) 19時〜21時
 第15章から最後まで(中公文庫p125からp188まで)

◎場所:オンライン会議アプリ「Zoom(ズーム)」 を使用したオンラインゼミナール
◎参加費:1,500円(学生1,000円)
*今回1回だけのご参加も可能ですが、継続講座ですので 全3回まとめてのチケット購入を推奨いたします。


講師紹介

上野大樹(うえの・ひろき) 1983年生まれ。
一橋大学社会学研究科研究員。思想史家。京都大学大学院人間・ 環境学研究科博士後期課程修了。京都大学博士。 日本学術振興会特別研究員DC、同特別研究員PD等を経て現職。 一橋大学立正大学慶應義塾大学にて非常勤講師。 最近の論文に、"Does Adam Smith's moral theory truly stand against Humean utilitarianism?" (KIT Scientific Publishing, 2020), "The French and English models of sociability in the Scottish Enlightenment" (forthcoming).

 

お申し込み

ptix.at


2018年度 ゼミナール

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ハンナ・アーレント(Hannah Arendt)

春期

KUNILABO人文学講座「アーレントからの政治哲学入門」アンコール企画
夜スク「ハンナ・アーレント入門〜共和国のはじまり〜」
2018年5月31日(木)第1回《リベラル・アーツとしての政治哲学》
2018年6月  7日(木)第2回《アーレントにおける共和国ルネサンス
2018年6月14日(木)第3回《アーレントケンブリッジ学派》
2018年6月21日(木)第4回《アーレントレオ・シュトラウス

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昨今の教養ブームや人文学への一定の関心の高まりには、小手先の技術論では現代社会が抱えている本質的問題に対応できないという意識が背景に見られます。政治を単なる事情通としてではなく、哲学的な視点から考えるために格好の素材として、本講座ではアーレントの諸著作をとりあげます。特に歴史的な視座を大事にしつつ、専門知とは異なる総合的な教養=リベラル・アーツとして政治哲学を学びましょう。
上野大樹・記)
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国分寺市のオーガニックカフェ「カフェスロー」の市民講座「夜スク」のプログラムのひとつとして、「KUNILABO」2017年9月期の人気講座「アーレントからの政治哲学入門」のアンコールが開催されました。
「専門家や地域の人々、 様々なバックグランドを持つ人々と、共に学び合う「大人の学び場」を作る。」をコンセプトとした「夜スク」では、全4回の講座終了後も、講座で喚起された参加者の学習への興味を応援してくださり、講師と参加者の集いの場を継続してくれることになりました。


秋期

2018年9月20日(木) 春期のおさらい勉強会
2018年11月15日(木) アーレントレオ・シュトラウスおさらい

秋期は、春期の復習をしながら難解なアーレントの思想をそれぞれ勉強することを通して哲学の学び方や、図書館の活用、哲学辞書や百科事典の使い方などを改めて教わりました。
アーレントの政治哲学にかんする新書や文庫なども複数紹介され、基礎知識が増え、初めての哲学ですが、自分なりの勉強の仕方もだんだんわかってきます。
次はいよいよ、アーレントの著書に挑戦。まずは軽いエッセイから入ってみることになりました。


冬期

2019年1月29日(火) アーレント「啓蒙とユダヤ人問題」を読む
2019年3月  7日(木) アーレント「独創的な同化」を読む

春から学んで来たアーレントの哲学について、ついにアーレント自身の文章を読みます。哲学辞書を引き、当時の時代背景を世界史レベルで復習しながら把握に努め、エッセイとはいえ読み慣れないと難解な哲学者の記述を読み解く試みを各自行いました。
また、20世紀のドイツでアーレントが抱いた国民国家への問題意識は、アーレントが古典と呼ばれる現代でも変わらない事が見えてきます。現代の問題に置き換えて議論を試みてみると、それを語り合うこと、答えを出す事がいかに難しいか、実感できました。

 

参考文献

アーレント

ハンナ・アーレント」 矢野久美子著 中公新書
今こそアーレントを読み直す」 仲正昌樹著 講談社現代新書
アーレント最後の言葉」 小森謙一郎著 講談社選書メチエ

 

政治哲学・思想

徳川時代の宗教」 R.N.ベラー著、池田昭訳  岩波文庫
 「近世」と独自分類される日本の江戸時代の文化状況を知るための本。

哲学・思想翻訳語事典」 柴田 隆行 論創社
 「幕末から現代まで194の翻訳語を「原語の意味」を確定したのち周辺諸科学を幅広く渉猟し大・中・小の項目で“読む事典”として解剖する。」(出版社WEBサイトより)

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福」 ユヴァル・ノア・ハラリ著  柴田裕之訳 河出書房新社
ベストセラー本。授業中に出た話題について先生から理論的な裏付けをする参考図書として紹介。「妖怪」という概念を生み出すのは人間だけ、という疑問にまつわる論考がある(はず)。

 

講師紹介

上野大樹(うえの・ひろき) 1983年生まれ。
一橋大学社会学研究科研究員。思想史家。京都大学大学院人間・ 環境学研究科博士後期課程修了。京都大学博士。 日本学術振興会特別研究員DC、同特別研究員PD等を経て現職。 一橋大学立正大学慶應義塾大学にて非常勤講師。 最近の論文に、"Does Adam Smith's moral theory truly stand against Humean utilitarianism?" (KIT Scientific Publishing, 2020), "The French and English models of sociability in the Scottish Enlightenment" (forthcoming).

 

2020年度春期 I.カント『永遠平和のために』 参考文献

 

◇カントの政治哲学概要


『カントの政治哲学入門 ─政治における理念とは何か─』(2018、白澤社) 網谷壮介

hakutakusha.hatenablog.com


当ゼミナール講師の共同研究仲間でもあり、講師のカントの政治哲学の解釈とも近いとのこと。
この本では、カントの法哲学上の主著である『法論』(『人倫の形而上学・第一部・法論の形而上学的定礎』1797)を取り上げて読解が行われています。「『法論』に触れなければ、カントの政治思想の全体像・体系性を理解したことにはならないだろう。カントはそこで、人間の自由を基礎として、どのような国家であれ目指さねばならない、理念的な方と政治のあり方を論じているのだ。」(本文10頁より引用)
難解なカントの著書、そのなかでもとりわけ難易度が高いといわれる晩年の大作『法論』が、明晰に読みやすい解説で記されています。(2020.5.25追加)

 


◇国際政治思想入門


『国際正義の論理』(2008、講談社現代新書) 押村高

www.amazon.co.jp

「国家の主権」と「人間の安全保障」の拮抗する時代に。カントの『永遠平和のために』で語られる国際的な国家間の関係から現代の国際政治を眺めると、また新しい発見がありそうです。(2020.5.25追加)